新・花鳥風月

@mitchan5のブログです。

つづき(スルー推奨)

ブログって5000文字までなんですね。とりあえず続きです。
フロッピーから転載しているだけなのでスルー推奨です。
注意事項は前回と同じです。加えて米軍側の人名が未定なので
<AAA>とか<XXX>のままですがご了承下さい(笑)




その頃、ハンガーデッキ(格納甲板)では、愛機の一〇式艦上戦闘機三番機に損害が無いか、
次田英彦二等海佐は点検していた。

「ロックが外れていたら大損害になっていたな」

一人呟き、その隊長機のマークが入った機体を、掌で撫でた。
すると後ろから人影が近づいてきた。

「隊長!大丈夫でしたか?他の機体は全てOKでした」
「外から見ただけだが問題はないらしい」と、次田は副長の福田洋児三等海佐に答えた。
「しかし、どうしたんでしょうねえ?中国の原潜に攻撃されたんじゃないかって、騒いでましたけど。」

少し不安な表情で福田は言った。

「いや、違うな。第一どこも損害はうけていないらしいし、火災も、警報もない。おそらくコントロー
ルのコンピュータの誤動作だろう・・・。」

ある点では当たっていた。コントローラーのXEVIOUS-3は、誤動作を起こしたのである。
しかし、ただ艦が止まっただけではなかったのだが。

「だから、コンピュータなんか当てにならないんですよ。何でもコンピュータに任せておいて、人間が
楽しようなんて百年早いですよ。」と、福田は白い歯を見せた。
「そうだな・・・」次田は、止まってしまっている腕時計に気が付き、ふと不安になった。
「今、何時だ?」次田は尋ねた。
「えっと、あれ、また止まってる。やっぱりベトナム製の腕時計は、だめですね」

次田の心の中で、何かわからない不安がさらに大きくなっていった。

「ピピピ・・・」コンソールの横のトーキーが、呼出音を発した。
「なんだ?中田だが」ハンドセットを取り上げ、中田は答えた。
「宮脇ですが、ちょっと通信室までおいでいただけませんか?」
通信室で何が起こっているのか考えながら
ハンドセットを置くと中田はブリッジを後にした。

「中田だ」入り口の前に立ち、中田は声をかけた。
「どうぞ」通信室の中には、宮脇をはじめとする六人の通信課の面々が、各々コンソールに
向かっている。

通信課は、全員で二十一人、一日三交代で全ての通信、レーダー等の操作に当たっている。

「これを聞いてみて下さい。さっきからこの周波数で、暗号と思われる電信が多く受信できるのです」

中田は、渡されたレシーバーを耳に当てた。少しの間、通信隊に籍を置いた事のある中田は、
すぐに和文と数字による暗号電文である事に気づいた。

「XEVIOUS-3の暗号データベースと照会してみよう」

と言うなり、中田は通信室のXEVIOUS-3の端末に駆け寄った。
暫く中田はキーを叩いていたが、ふと、その指が空中に止まった。後ろで見ていた宮脇は、その行為が気になり声をかけた。

「何か、わかりましたか?」

「うーん。これは第二次世界大戦の開戦直後の日本海軍のものらしい」

「ばかな・・・」宮脇は一笑したが、ふと不安が心をかすめた。

「でもこれは・・・データベースによるとこの暗号文は、昭和一七年六月五日午前六時五十二分、ミッ
ドウェー島攻略航空隊の長友長大大尉の機から発せられた内容と全く一致している・・・」

二人の会話を聞いていた室内の隊員達は、その成りゆきを黙って見守っていた。ある者は、
(前に同じ様な事を書いた、映画があったな)と思い、又ある者は、
(こんないたずらをする奴の顔を見てみたいものだ)と思っていた。
そして、暫くの間沈黙が続いた。外では濃霧が晴れ、太陽の光が辺りを白く照らし出していた・・・。



一九四二年六月五日ミッドウェー島北東海上午前六時

「ジャップめ!パールハーバーの借りはきっと返してやる!」汚い言葉で罵りながら、
ハルゼーは唾を吐いた。

空母「サラトガ」のブリッジで、一人イライラしているハルゼーを<XXX>が宥めた。

「長官!もうすぐジャップの居所がわかりますから、落ちついてください」

酒でも飲んでいるのかと思うほど紅潮した顔のハルゼーは<XXX>を睨みつけ

「索敵機からはまだ何の情報もないのか!さっさと見つけろ!」

今度は壁を靴で蹴り上げた。

一九四一年十二月九日、あの日のことは永遠に忘れない。我が空母艦隊が留守にしている間に
卑怯なジャップどもがハワイの太平洋艦隊司令基地を騙し討ちし、戦艦、巡洋艦などが壊滅的な
被害を受けた。
ハルゼーはハワイに帰還したとき見た悲惨な光景を思い起こす。浅瀬に沈んだ戦艦アリゾナ
まだ燃え続けていた飛行場、燃料タンクの誘爆に巻き込まれた部下たちの死体。忘れろと言っても
忘れることのできない怒り。
両手をついて下を向いていたハルゼーに通信員が大声で報告した。

「ジャップ発見!」

飛び跳ねるようにしてハルゼーは振り向き、叫んだ。

「殺っちまえ!」

アメリカ太平洋艦隊の空母から雲霞のごとくドーントレス、ヘルダイバー、ワイルドキャットが飛び立った。



第二章  遭遇

隊司令本部との通信の手段がわからないまま、西田らはオペレーションセンターで途方に
暮れていた。

「赤城をはじめ、白雪以外は損傷も無く、航行可能だが、このまま横須賀に帰るべきだろうか?」

西田は、ようやく全員配置についたオペレーションセンターで切り出した。

「白雪はどうしますか?」

白雪は、浸水は止まったものの、自力航行が不可能であった。艦首左舷が鋭利な刃物で切り取られたかのようにスパッと欠落している。

「曳航は可能ですが、速度が出ません」艦隊制御担当の番所拓也二等海佐が報告する。

「白雪をここに置き去りにはできない。しかし本部と連絡が付かないまま演習を
続けるわけにもいかない」

西田は、骨折のため応急のギプスをした左腕をさすりながら、また考え込んでしまった。

「では、十六式艦偵を横田まで飛ばしましょうか?」藤田元保一等海佐が提案した。

日米安保破棄後、米軍は日本各地の基地から撤退し、ミッドウェー、台湾、黒竜江省に移転した。
その後航空自衛隊が施設を引き継ぎ、現在、「本土防空司令センター」として機能している。

「それしか方法がないな」

西田は了承し、紺碧の空に十六式艦偵は飛び立っていった。




丁度その時、GF-1の北東上空にアメリカ機動部隊のカタリナ飛行艇が現れた。

「国籍不明のレシプロ機、一機本艦に接近してきます!」すぐ横の通信室から報告が入った。
「映像、出します!」

ブリッジ最上部に備えられた高分解能ジャイロカメラからの映像が、オペレーションルームの九分割の表示パネル一杯に映し出された。

「ひ、飛行艇じゃないか!」中田が叫んだ。もはや飛行艇という言葉が無くなって久しい。
「マニアがうれしがって飛ばしてるんでしょう」藤田が呟く。
「しかし...見てみろ!翼下に爆弾を装備しているぞ!」
「どうせレプリカでしょう?」

と、二人がやり合っているそのうちに、

「XEVIOUSが攻撃命令の許可を訊いてきてます!」射撃統制員の高丸正弘二等海佐が叫んだ。
「ばかなっ!キャンセルしろ!」慌てて西田が指示した。

あわてて高丸二佐はキャンセルボタンをたたいた。
許可ボタンはその横に透明のカバーが掛けてあるままだ。

艦隊を発見した、カタリナ飛行艇は慌てて反転し、北東に飛び去った。
ハルゼーが探し当てたと思ったのは、実は、GF-1だったのである。



ミッドウェー西海上を松葉正也三等海尉の一六式艦偵は順調に航行を続けていた。

「雲一つない、いい天気だ~ね~」
ふざけた調子で、副操縦席の辻伸也海曹に話しかけた。
「ほんまですわ~。今日は空気がきれいやな。水平線の果てまで見えるわ~」
「東京が無くなってるなんてことはねぇだろうなぁ」
「まじっすか?」
まだ大気が汚染されていない空を、艦偵は高度六千で横田基地に向かって飛行していた。

「ビーッ」松葉の前にある対空レーダーが大音響を放った。
「なんだぁ?ここいらに民間機は飛ばないはずなのになぁ?」
「南西の方に飛行機がいっぱい写ってるで?なんで?」
「こっちにむかってる?なんだぁ?」
「高度上げといた方がええんとちゃうんかな?」

そうこうしているうちに三機の〇戦が目視確認できる距離まで近づいてきた。

「おいゼロ戦だよな?」
「ほんまなんでやろ?」

一旦、艦偵の下を通り過ぎた〇戦が反転し背後に迫ってきた。

「おい後ろにつかれたぞ!何のつもりだ?」
「か、からかってるんとちゃう?」

一六式艦偵は、定員四名、四発のレシプロ機である。二万四千キロの航続距離を稼ぐため
速度は犠牲にしている。

「タタタ・・・」

追い越しざま、軽い発射音とともに小さな衝撃が松葉のシートを揺らした。

「おい撃ってきたぞ!」

松葉は副操縦席に目をやった。

「!!」

そこには、喉元を押さえて苦しんでいる辻海曹の姿があった。

「どうした辻!」

起こそうとした辻の喉の右側面から大量の鮮血が吹き出した。
永友隊の護衛機が右後ろ上空から放った12.7mm機銃弾は一六式艦偵の薄いジュラルミン
機体を貫通し辻海曹の右首をえぐって操縦スティック横のレーダーディスプレイに突き刺さった
のだった。

「おい!辻!辻!」
「ガガガ・・・」さっきより大きな衝撃が機体を揺らした。

左翼の方に目をやった松葉は、愕然とした。

「なんだと!」

主翼中央部付近にあるVOLVOの二四気筒エンジンが火を噴いて止まっている。
スティックを取り、左旋回で急降下した。一六式艦偵は対潜ホーミング魚雷「雷神」以外の武装
装備されていない。ただ逃げるだけである。
ミサイルに対しては、ECMやチャフなどで対抗できるが、機銃相手には役に立たない。

「メイデイメイデイ!こちらブラボーワン、正体不明機の攻撃を受けた。救援を求む!」

緊急チャンネルで赤城に通報しながら、一八〇度回頭して赤城の方へ進路をとった。





「長官!旧式のレシプロ機が本艦隊に向かって飛来してきています!」

宮脇が対空レーダーを見ながら叫んだ。

「また飛行艇か?」西田は面倒くさそうにつぶやいた。
「いいえ...」宮脇は言葉を失った。

気になった西田が振り返った先のディスプレイに、雲霞のごとくひしめき合って飛来してくる米海軍の
レシプロ機が写っていた。

「お、おい!なんだこれは!映画でも撮っているのか?」

「金剛から緊急入電!我攻撃を受く。応戦許可を請う」ヘッドフォンを押さえながら通信課の
坂本二尉が叫ぶ。

「攻撃って...誰に!」

「長官!許可しますか?」坂本が急かす。

「...」西田の頭は混乱した。

「なにっ!長官、霧島が被弾しました!艦首に急降下爆撃を受け炎上中とのことです!」

「...」

「長官!機関を始動して回避行動をさせましょう!」中田は叫ぶと西田の回答を待たずに
機関室に連絡し、最大航行速度で回頭するよう指示した。宮脇は、コマンドコンソールに飛びつき
各艦に指示を伝え、通信室に向かった。

「長官も早くこれをつけてください!」救命ベストとヘルメットを西田に渡すと中田は
オペレーションルーム中央の艦長席に着き、マイクを握った。

「こちら艦長だ!正体不明の敵から攻撃を受けている。配備レベルを1にする。レベルワンだ!」

艦内にサイレンが鳴り響いた。

「長官!攻撃を受けた以上、自衛のため応戦しましょう!」ヘルメットをかぶりながら
中田が詰め寄った。

「しかし相手が誰かわからん以上、応戦は...」言い終わる前に至近弾が艦を揺さぶる。
よろめいた西田はディスプレイの横にしこたま頭を打ち付けた。

「仕方ない、応戦しよう...」

「はっ!」中田は軽く敬礼すると坂本に駆け寄った。

「全艦隊に攻撃許可命令を出せ!これは演習ではない!」