2011-09-06 今日は敬愛する星新一さんの誕生日 自作小説 #小説 今日は星新一さんの誕生日です。生きていらっしゃったら85歳だそうです。 中学の頃からとても好きで毎日読みまくってました。 恥ずかしながら星先生に触発されて中2の時に自作したショートショートを載せてみたいと思います。 高2のときパソコンでワープロの練習のつもりで入力したのがフロッピーに残っていたので少し訂正をして 投稿します。 ショートショート『節税協会。』 その男は迷っていた。 ある街の外れの一角にある今にも崩れそうな古い雑居ビル。 その3階の踊り場に男はいた。 【節税協会】 ドアにはめ込んであるすりガラスに黒いペンキで書かれた半ば消えかかった文字はそう読めた。 その日の朝、 「知り合いから教えてもらったんだが、向こう町にある△□ビルの3階に、ある事務所があってな。そこへ行けば会社や社員は税金を払わなくて済むそうなんだ。うちの会社も経営状態が厳しいから君にそこへ行ってきてもらいたいんだ」 男は社長の特命でこのビルを訪れたのだが、どうしてもドアをノックする勇気がなかった。 明らかに脱税指南の会社だろう。 男は小一時間悩んでいたが、社長命令に背くことも出来ず、ドアをノックした。 「どうぞ」 男は恐る恐る辺りを見回しながら事務所に入った。 その事務所は部屋の隅に古いコンピュータ端末と中央に応接セット、一番奥に古い事務机が一組あるだけのこぢんまりしたところだった。 「ようこそ。今日はどのような御用向きで?」 想像していたのとは違って、一人で古い事務机に向かっていた50代のごく普通の紺のスーツを着たサラリーマン風の男が笑顔でこちらに近づいてきた。 「あ、ああ、私、○×商事からやってまいりました。」 男はいつもの営業スタイルで名刺を差し出した。 サラリーマン風の男は応接セットに案内し、ソファに腰掛けるよう促した。 「さて、お話しをお伺いいたしましょう」サラリーマン風の男は笑顔で言った。 「こちらに伺えば税金を…」男の最後の言葉は消え入るような小さな声になっていた。 「はい。さようでございます。早速ですがこちらの契約書にサインしていただけますか?」 なんと話が早いのだろうか。そのサラリーマン風の男は一枚の契約書を男に差し出した。 男は数行の契約文と署名欄にさっと目を通した。 【本契約を結んだ法人は今後一切の納税をしなくてよいものとする。なお、本契約の契約料は法人の利益の50%とし、毎年支払うものとする】 「契約料が利益の半分なんて!これはあまりにも高すぎる!この話はなかったことにする!」 あまりの内容のひどさに男は席を立とうとした。 「いいんですか?あなたとの会話はこの録音装置に全て記録されているんですよ。これを持って税務署に行けばあなたはもちろん、あなたの勤めている会社も脱税で警察に捕まってしまいますよ」サラリーマン風の男はさらりと言ってのけた。 「しかし私があなたのことを警察に話せば、あなたも捕まってしまうじゃないか!」 男は必死で反撃した。しかしサラリーマン風の男は笑顔でこう言った。 「当社は大丈夫ですよ」 「なぜだ!こんな古いコンピュータ一台でなにが出来る!我が社のコンピュータは最新型だ!あなたなんかに頼らなくても自分で何とかしてやる!あなたの会社を告発して潰してやる!」 男は虚勢を張ったが、サラリーマン風の男は意に介せず続けた。 「当社は潰れませんよ。もちろん初めのうちはこの完璧な脱税プログラムのことを税務署に知られないようにひっそりと営業していました。しかし、だんだんと顧客を増やしていったんですよ。 だんだんと。」 男はサラリーマン風の男がなにを言いたいのかわからなかった。 「我々はこの脱税プログラムのおかげでとても業績を伸ばすことが出来ました。しかし我々は、きちんと納税してきたのです。脱税せずに。 そして今では、当社の納税額はこの国の税収のほとんどを占めるようになりました。」 男ははっとした。 「当社が潰れることはすなわち…」 男が帰った後、サラリーマン風の男はサインされたした契約書を見ながら、全国の支店とオンラインでつながっている古いコンピュータに、男の勤める会社名を入力した。 「ここが唯一残っていた会社だ。」 ----------------------------------------- まだ消費税というシステムがなかった頃のお話でした。 中学生の私は法人税と所得税が税金のすべてだとしか理解してませんでしたヾ(〃^∇^)ノ